タンツ・ムジーク

音楽めもです。

15年越しのジョン・サイモン

最近、ジョン・サイモンの「Out On The Street」(1992年)というアルバムをよく聴いています。このアルバムを購入してから余裕に10年、いや多分15年近くは経ってますが、繰り返し聴くようになったのは本当にここ数日のこと。

というのも、買った当初、良さが全く分からなかったんですよね。ポップではあるんだけど、いぶし銀のような大人のロックに耳がなじまなかった。何よりジョン・サイモンの一番の魅力は何とも形容し難いへなちょこな歌声であるのに、若干上手になってしまってるところが最大の萎えポイントでした。つるん、と何も引っかからないまま、一巡したあとはそのまま寝かしの期間に…。

てな感じで、その時求めてたものが一つもないアルバムだったのですが、何も期待せず、手持ちのものに飽きたという理由で15年ぶりに再生したら意外と新鮮に聴こえた、といいますか。今も、なにコレめっちゃ名盤じゃん!ってテンションではなく、たら〜~〜っと流して、ああ、割とイケる…くらいの楽しみ方をしてます。

 

ジョン・サイモンと聞いてピンとくる人はあまりいないかもしれませんね。決してマイナーな人ではないのだけど、私も正直、つまみ食い程度にしか彼のディスコグラフィーを追ってません。(基本的にプロデューサー畑の人)

そればかりか私にとって、ジョン・サイモンの入り口はいわゆる代表作ではなく(ザ・バンドというグループのプロデュース?)、変り種仕事(60'sコラージュ色の強いサントラや企画モノ)の方だったので、ジョン・サイモンに対してだいぶ偏りのあるイメージを最初は抱いてたと思います。1970年リリースのファースト・ソロアルバム「JOHN SIMON'S ALBUM」を聴くまでは完全にモンド的なカテゴライズをしてました。

そうそう、92年リリースの「Out On The Street」同様に、ファースト・ソロアルバムをはじめて聴いた時もだいぶ違和感があったのでした。違和感の原因は、おそらくザ・バンドの音楽がジョン本人のソロワークに一番近いのだろうけど、そこを通らずにいきなり本人名義の作品を聴いたから。何度か聴いていくうちに、素敵なメロディーとかっちりしたアレンジの上に乗っかる脱力ボーカルのギャップがクセになり、今でも5本の指に入るくらいの愛聴盤になったのだけど。なんか、お金と人脈がある老人が作った、贅沢なプライベート・ディスクって雰囲気が最高なんですよ。なんて、おじいちゃんって勝手にイメジってたけど、よくよくプロフィール見たらファーストリリース時の実年齢、29歳で驚いた(笑)

 

 

 ブックレットを参考にすると、本人名義のファースト・ソロアルバムは発売当初はあまり話題にならなかったようですが、いつしかウッドストックの名盤と謳われるようになった、とのこと。ファーストだけでなく72年リリースのセカンド(ジャズっぽい)もAppleMusicに登録されてたから今もある一定の評価はされてるのかな。

1941年8月11日生まれ。(偶然にも明日お誕生日!74歳!) 自分の生まれた季節が大好きだから夏についての歌をたくさん書いてきた、ですって。かわいらしい。今年の夏も楽しんでるのでしょうか。

 

 

私が知ってるジョン・サイモンをいくつか。

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THE CYRKLE「 I'm Happy Just To Dance With You」(1967)

NEON」収録。ビートルズの曲をサイケ風味にカバー。転調の持ってき方が不思議で面白い。ヒットメーカーとしての第一歩はこのバンドのプロデュースだったそう。バカラック曲の「It Doesn't Matter Anymore」カバーも割と好き。

 

 

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 名曲「My Name Is Jack」が収録されてるサントラ「You Are What You Eat」(1968)。

リンク先で視聴出来ますが、もろにこの時代を象徴するサイケ感。「My Name Is Jack」はマンフレッドマンムーンライダーズ、ピチカートにカバーされてますが、やっぱり朴訥歌唱がチャーミングなオリジナルのジョン・サイモン版が一番魅力的だと思う。

 

 

 

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「Temptation, Lust and Laziness」 (1969 「Last Summer」サウンドトラック収録)

名義は Aunt Mary's Transcendental Slip & Lurch Band となってますが、ヴォーカルはリヴォン・ヘルム(ザ・バンドのひと?)とジョン・サイモン。

 

 

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ジョン・サイモン「HAL,THE HANDY MAN」(1969 「Last Summer」サウンドトラック収録)

このサントラ、良曲だらけでめちゃくちゃ好き。 もちろん映画本編は観てないけど(ありがち)。

 

 

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ジョン・サイモン「Davy's On The Road Again」(1970)

ファースト・ソロ・アルバム「JOHN SIMON'S ALBUM」収録。いい声。

個人的に感じたジョン・サイモンのソロワークとプロデュース作品のギャップを他に例えるならば、フリッパーズが解散して小沢健二のソロをはじめて聴いた時の感覚に近い。あそこまでの衝撃ではなかったけど、予想してた小粋なポップスとは真逆な、泥くさ~いロックに慣れるまで少し時間がかかった。でも、何度か繰り返し聴いてると、ある日突然、聴き方や楽しみ方が分かるようになることってありますよね。若い時は特に、トレーニングを積めば積むほど好きなものが増えると思う。そしてトレーニングのおかげで一番大げさで暑苦しいアレンジの「TANNENBAUM」が大好きになってしまったわたし。みじめで寂しい雰囲気の「RAIN SONG」も大好き。

 

ところで私のヴォーカルだが、それまで自分を"歌い手"と思ったことは無かった。それでファースト・アルバムでは「ああ、歌はダメだ!もう歌おうなんて思うもんか。」と言いきかせていたが、セカンド・アルバムの時には、「ほんのちょっとは歌い手らしくなってきたぞ。少しはうまく歌えるようだ。」それからというもの、歌うことにかけて随分練習を積んできた。          ―「JOHN SIMON'S ALBUM」解説より

 

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「Motorcycle Man」(1970)

「ああ、歌はダメだ!もう歌おうなんて思うもんか。」と自分に言いきかせていた頃のジョン・サイモン。

 

 

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「Motorcycle Man」(2013 live)

お歌の練習を頑張ったあとのジョン・サイモン。

 

 

2006年リリースの小沢健二「毎日の環境学:Ecology Of Everyday Life」に全く興味がわかずスルーしてきたのですが、時を経た今、フラットな気持ちで臨めば案外、楽しめるものなのかしら。あのアルバム、好きな人はむしろ「LIFE」なんかより好きですよね。

 

90年代のはちゃめちゃな小沢健二の歌声と、ジョン・サイモンのファーストにおけるへなちょこボーカルを「Out On The Street」を聴きながら重ねてみる、2015年の夏。